研修旅行2023(2)

天神ビジネスセンター


1、はじめに

今回は、世界的な設計事務所OMAのパートナーとして「中国中央電視台新社屋」など海外で先進的なプロジェクトを多数手掛ける重松象平さんが地元・福岡で関わったオフィスビルだ。OMAが手掛けた「シアトル中央図書館」を昔見たことがあり、個人的に興味があったため、旅行プランとは別で早朝に出掛けて見に行くことにした。
 
福岡市が進める「天神ビックバン」という、規制緩和によりオフィスビル建て替えを促進し、新たな都市空間と雇用を創り出す政策の一環で、国際コンペティション(設計競技)が行われ、OMA/重松象平氏の案が選ばれた。敷地が天神地区の大通りに面することから、建物を氷の塊に見立て、明治通り・因幡町通りのヒューマンスケール(人の身体の大きさ)に合わせて、内部が外部へ溶け出していくイメージで、建物の外観がデザインされている。建物を構成する最小単位としてヒューマンスケールを基にした、「ピクセル」と呼ばれるガラスユニットが連なったカーテンウォールが外装全体を覆っている。エントランスは、建物の角を削り取ったように雁行する形状になった吹抜けのアトリウム空間となっている。このビジネスセンターが福岡の新しいシンボルとなること目指した、斬新な建築デザインである。
 
【着目したいポイント】建物のボリューム感や「ピクセル」のデザイン
ガラスカーテンウォールの「ピクセル」には、ガラスが突出した部分や、建物の角を削り取ったように雁行する部分があり、建物から離れた場所や近づいた場所、内部のエントランスではどのように見えるのか。
 
(参考文献:新建築2021年12月号)
 

2、ピクセルの多様性と立体的なエントランス空間

明治通りを西から歩いていくと、「ピクセル」が少しずつ見えてきた。ピクセルの一つ一つが映し出すものが、見る角度によって変わってゆき、屋内が透けて見える部分や、空や街並みが反射して見えてくる部分もあり、屋外と屋内の空間が溶け合って1つのファサードとなっている。ピクセルの細部をよく見ると、北面や西面、東面それぞれで違う納まりになっている。見る所によって多様な表情を演出することで、訪れる人の多様性が表現されているように思う。

 エントランスに入ると、雁行するカーテンウォールの内側が現れ、角を強調した納まりにすることで立体感を出している。それに加え、他の内装の所々で直線的な意匠と照明を設けることで、このアトリウム空間に、よりダイナミックな印象を与えているように感じた。

     

 

3、まとめ

今回の研修旅行で視察した建物に多く共通していると思うことは、その建物の個性をその場所に応じて活かしている建築であるということだ。天神ビジネスセンターにおいては、ガラスカーテンウォールによって周囲の街や空の風景を借りつつ、内部空間の存在も組み合わせることで、この建築の個性を表現している。

 建築家は、建物がその場所でどのような役割を果たしていくのかということを、建物周辺の環境を読み解いたり、天神ビックバンのような地域活性を目指すプロジェクトの公共的な意義を考えたりすることで、建築のデザインに盛り込んでいったのではないだろうかと私は思う。

(植田 拓馬)