「子どもたちが、毎日通うのが楽しみになる保育園であること」を達成する為に、どうすればよいか、子どもの気持ちになって事業者様とも多く検討を重ね、①絵本の世界を感じるようなわくわくする建物、②ローカル鉄道の車窓から見える田園風景に浮かぶ地域のシンボルになるような建物、③閉鎖感のない、自由に動きまわれる空間を設計するに至りました。
その中でもより注力したのは、絵本の中の世界を具現化した屋根の形状です。大きな屋根に2つの塔が突き抜ける形の赤い屋根は3種類の赤色をまだらに配色することで優しさを感じられるイメージとしました。塔部分の屋根は円錐となり、円錐屋根と大屋根が取り合う部分は施工難易度が高く、3Dモデルを作成して何度も施工者と打合せを重ねて納まりをチェックしましたが、それでも屋根職人さんにはずいぶん苦労をかけたみたいです。最終的には職人魂を見せてもらい、イメージ通りの形となりました。
正面玄関から園庭の樹木まで視線が通る計画とし、内観デザインは自然をテーマとしていました。なかでもエントランスホールのデザインはテーマを可視化した強い思い入れがありました。天井が高く開放的な空間ですが子どもたちの目線にとって広すぎる空間とならないよう部屋の中に部分的な屋根と、柱型を利用した樹木のイメージを掛け合わせたデザインとしました。家具職人さんもすごく前向きに取り組んでいただき、実物大のサンプルを作成して検討を重ねました。頭で思い描いているデザインを作り手にも共有してもらい、イメージが実体化していく過程には期待に胸を膨らませました。
保育所の設計で最も苦労したのは安全性の確保です。安全・安心な建物とするのは他の用途の建物でも同様ですが、私たちが普段気にしないような角や小さな段差、少しの隙間で子どもは怪我をする危険性があるという事に加え、他の建築では考えない身体スケールでの計画に戸惑いながら、保育所の見学を行なったり、保育士の先生方にアドバイスを頂いたり、時には子どもの目線で歩いたりしながら限りなく危険性を排除していきました。3Dモデルでも図面でも気づけないような細部まで何度も現場を見て回り、多角的な視点で物を見ることの大切さを再度感じることが出来ました。
竣工後の内覧会には多くの人に訪れていただき、子どもたちも楽しそうにいきいきと活動していると聞き、嬉しく思います。これからも保護者、地域の皆様に見守られて子どもたちが楽しく活発に活動し、成長していただけると幸いです。