研修旅行2023(4)

建築家の思考 ~人工と自然・時間軸・要素への着目~


1、はじめに

『建築に正解はないが、不正解はある』ということを学生時代に教わった。
正解はないが不正解はあるという理不尽に感じる状態は、一方で思考の自由度があるとも捉えることが出来る。設計は多角的な視点から複数のスタディを重ね、設計条件や建築のあり方において、正解を探求し続ける作業と言っても過言ではないだろう。今回の研修旅行で見学をした『太宰府天満宮仮殿/藤本壮介』『九州芸文館/隈研吾』は一風変わった建築であり、数々の名作を残す有名建築家のどのような思考により建築が形成されているのかを、現地で感じた経験と参考文献をもとに考えていく。

2.、大宰府天満宮仮殿/藤本壮介

  

▲大宰府天満宮仮殿 正面      ▲大宰府天満宮仮殿 内部       ▲大宰府天満宮仮殿 配置図

本殿の改修に伴い3年間限定で建てられた大宰府天満宮仮殿は屋根の上に緑の世界が広がり、草木が浮遊しているかのような不思議な風景に目が惹かれてしまう芸術作品のような建築である。
人工物と自然の対照的なものを1つの建築に取り入れ、周囲の環境に調和させるように考えられた建築に目が惹かれてしまうが、参考文献を読んで今回特に着目したのが、『時間軸』による解答であった。1,100年以上の歴史を持つ大宰府天満宮の伝統を引き継ぎ、3年間限定の建築の縛りの中で未来へと受け渡していく必要がある中で、境内地で育てられた草木を植樹し、3年後の仮殿がなくなる際に境内地に移植をする事で、今後の未来を見守っていく草木を建築のメインとした考えはこれ以上ない解答だったと思える。
建築に捉われず、多角的な視点から解答を生み出した素晴らしい事例だと感じた。

3、九州芸文館/隈研吾

  

▲九州芸文館               ▲九州芸文館 案内サイン     ▲九州芸文館 配置図

九州芸文館は『開かれた文化施設』というコンセプトに合わせ、三角形の断片が屋根や壁を構成しているのが特徴的な建築である。実際に現地を訪れてみると、屋根、壁面の多様な質感や模様は迫力があり、三角形の断片毎の組み合わせは圧迫感を与えない印象があった。そんな多様なテクスチャーの三角形の断片には『屋根という要素に着目した思考』がある。『屋根という要素には箱としての建築を壊す大きな可能性を持つ一方で、閉じた空間をつくる危険性を内蔵している』という考えから建物の中心にボイド(中庭・広場)をつくることで屋根を分断し、乱雑な多角形の断片の集合体へと形状を転換することで、この建築の特徴が生み出されることに繋がっている。そして、結果的にボイドの要素を中央に取り入れることで、駅方向からゲートのようになる効果をあげている。
建築を構成する『要素に着目した思考』から建築の新たな可能性を追求するような建築になっていると思う。

4、おわりに

『建築には正解がない』この言葉は建築家にとって、ネガティブな思考ではなく、自由な思考による探求的な学びの本質なのではないかと感じるような2つの建築を見学した。
今後様々な設計を行っていく中で、与えられた設計条件・敷地条件・コンセプトに対して多角的な視点から明確な思考を持って建築をつくり上げていきたいと考える。
(篠﨑 巧)

5、参考文献

・大宰府天満宮仮殿/藤本壮介 新建築 2023年 7月号 P69〜P73
・大宰府天満宮仮殿/藤本壮介 GA JAPAN 180 2023年 1~2月号 P8~P15
・九州芸文館/隈研吾 新建築 2013年 9月号 P60〜P69
・九州芸文館/隈研吾 GA JAPAN 120 2013年 1~2月号 P71~P78
・九州芸文館/隈研吾 GA JAPAN 123 2013年 7~8月号 P7~P22
 

 
今年度の研修レポートは以上になります。若手社員の拙文に読みづらいところもあったかと思いますが、普段の仕事では見られない建築に対する思いが感じられ、個人的に楽しめました。
まだまだ若手社員はいますので、また別の機会でチャレンジしたいと思います。